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大阪高等裁判所 平成11年(う)412号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人両名をそれぞれ懲役一年六月に処する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、検察官佐々木茂夫提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は、被告人Aにつき主任弁護人大川治及び弁護人柴野高之共同作成の答弁書に、被告人Bにつき主任弁護人中西康政及び弁護人中井光共同作成の答弁書に各記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、原判決は、検察官起訴の「被告人Aは、大阪市a区bc丁目d番e号に本店を置くC株式会社(代表取締役D)の一単位の株式(一〇〇〇株)を有する株主であり、被告人Bは、昭和五六年三月一〇日から平成四年四月三〇日までの間、同会社E工場に従業員として勤務していたものであるが、被告人Bが同工場に勤務当時、同工場から廃出される断熱材の残材等が同工場敷地内で埋め立て処分されていたことから、被告人Aの株主権の行使として、同一〇年六月二六日開催予定の同会社の第七四回定時株主総会で、右産業廃棄物の埋め立て処分を不法投棄であると質問するなどの態度を示すとともに、これをマスコミに公表するなどと威迫しながら、株主権の不行使の対価を得ようと企て、共謀の上、同年一月二三日午後二時過ぎころ、同会社本社において、同会社総務部総務チームリーダーFに対し、『E工場の敷地に断熱材の不良品を埋めていると聞いた。写真もある。また、E工場では資料を改ざんして断熱材のJIS規格を取得したと聞いている。今度の株主総会で一言発言したい。』旨申し向け、次いで、同日午後五時ころ、同会社本店に電話をかけ、同人に対し、『Gテレビに私が知っている情報を提供して、この問題を報道の力で正してもらうつもりである。』旨申し向け、さらに、同月二六日午後零時四〇分過ぎころ、同会社本店に電話をかけ、同人に対し、『株主の一代表として、株主総会の招集を求める権利を行使し、全取締役の解任を求めたい。しかし、もう一つの方法として双方が納得する形で納めようかとも思っている。私たちに、不法投棄の産廃の処理の仕事をさせていただけないか。』旨申し向けるとともに、同会社の名誉、業務等に危害を加えかねない気勢を示して暗に金員を要求し、もって、威迫の行為を用いて、被告人Aの右株主の権利の行使に関し、同会社の計算において財産上の利益の供与を要求したものである。」との公訴事実に対し、被告人両名や、C株式会社総務部総務チームリーダーのFらの捜査段階の供述調書の信用性を否定した上、被告人両名が株主権の行使に関し利益供与を要求することを共謀したのは、被告人Aが平成一〇年一月二三日にC本店でFと交渉して帰宅した後であるとして、その後の同月二六日の言動については、ほぼ公訴事実どおりの事実を認定し、その限度で商法四九七条三項の利益供与要求罪が成立するとしたものの、それ以前の同月二三日の発言は、それが「威迫の行為」に当たるか否かは別として、共謀以前の行為であるから、右発言と株主権行使に関する利益供与の要求との間には関連性がないとして、威迫による右要求行為の成立を否定した、しかし、被告人両名やFの捜査段階における供述調書の信用性は十分認められ、これらの証拠等によれば、被告人両名は、当初から威迫による利益供与の要求をする旨の共謀を遂げた上、同日に「Gテレビに私が知っている情報を提供して、この問題を報道の力で正してもらうつもりである。」といった威迫行為に及んでいることが認められるから、被告人両名につき威迫による利益供与要求罪が成立することは明らかである、したがって、これを否定した原判決は、証拠の評価、取捨選択を誤り、その結果、事実を誤認したものであって、しかも、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて、以下のとおり、判断する。

一  本件公訴事実及び原判決の各内容は、いずれも所論のとおりであるところ、原判決は、その認定、判断に至った理由として、次のように説示している。

すなわち、原審において、被告人Aは、「株主でないと、疑惑を追及するための話をしには行けないと思っていた。株主でなければ、最初に会う約束もとれないのではないかと思っていた。株主権というのが、どういうものか分かっていなかった。株主総会で、疑惑の件を発言する意図もなかった。」旨、被告人Bも、「被告人Aが株主となり、株主総会で発言すると言えば、Cが金を出すだろうということではなく、Cが悪いことをしているという話をしている時に、たまたま被告人Aが来て、株を買えば、Cにアプローチできるかな、という話になった。」旨それぞれ述べて、当初の段階では、株主総会でCの疑惑を追及し、株主権に関し利益供与を要求する共謀は成立していなかったとの趣旨の供述をしているところ、(1)もし、そのような共謀が成立していたならば、被告人AからFに対し、その旨の発言がなされるはずであるのに、カセットテープの再生結果によれば、Fに対してCの疑惑を株主総会で発言して追及する旨申し向けた事実は、平成一〇年一月二三日を含め一切認められず、Fの一連の供述調書は、被告人Aが同日Fに対してした「僕も一口株主で大した者じゃないですけど、今度の株主総会でですね、それまでは(株式を)持ってまして、一言だけ発言したいんですよ。EのHっていう課長さんがね、ショウガイ担当のHですという形で言われたんで、僕は、そういったつもりでE工場へ行ったつもりじゃないんで、ショウガイ担当と言われた言葉が、ずいぶんこっちのプライドを傷つけましたんで。」などという、Cの疑惑の追及とは明らかに無関係な発言を、実際とは異なり、あたかもCの疑惑について追及するために申し向けられた発言のように録取されたものであること、(2)平成九年一二月二五日にE工場で被告人Aらの応対に当たったHの司法警察員に対する供述調書(原審検察官請求証拠番号一五号)中には、同日、被告人AがCの疑惑についてクレームを付けた上、「工場へ来て総務課長さんと話をして少し安心したが、Iのようにならないよう心配している。株主総会に出席して事実を確認するつもりである。大阪本社にも行くつもりである。」旨の発言を同被告人がしたとの記載が存するが、Fの供述調書の場合と同様の疑いが存するのみならず、ショウガイ担当者が出てきたことに対する苦情について、当のH本人に対し、「株主総会で発言する。」という形で追及した可能性も否定できないこと、(3)被告人らには、過去に同種の犯行を企てたことや総会屋関係者などとの繋がりを持っていた形跡が全くうかがわれず、株主権に対する知識も極めて稚拙(平成一〇年一月二七日や同月二九日の被告人AとFとの電話でのやりとりの中には、株主権についてFが同被告人に対して教示するかのような言動まで認められる。)といわざるを得ないこと、(4)被告人Bの司法警察員に対する供述調書中には、「『総会屋というのは、そんなにもうかる仕事なのか。一体、どうやっているんだろう。おそらく、右翼とか暴力団等のバックがあるのだろう。』等と思っておりました。」「(私は被告人AとJに)『実は、CはJIS規格を取得する時にデータを改ざんしているんだ。産業廃棄物も不法投棄しているしな。だから、Cの株を買って、株主になれば、会社に圧力をかけられるし、話のテーブルに乗せられると思うんだ。』等と私の考えていたことを話したのです。」(いずれも同四一号)、「(平成一〇年一月二四日か二五日ころ、被告人AがFさんから聞いてきた話の内容を整理して、二人で話し合ううち)私は、会社側は株のことを一番嫌がっているな、と分かり、また、被告人Aからも、『株主の権利って何ですか。商法のこととか、社長、調べてくださいよ。』等と言われたものですから、近くの本屋に行って本を買ってくることにしたのです。」(同四四号)などという被告人らの原審供述に沿う部分も存すること、(5)被告人Aの供述調書中、株主権の行使に関し利益供与の要求を行う旨の事前共謀が存在していたことを強くうかがわせる「(当初の共謀の段階で)私の犯行における役割としては、Cに対して前面に出て対応するということであり、例えば、Cが私たちの意図に沿わないような話をしたりすれば、株を取得していることから、株主権の行使ということで、『会社の総会において、社長を追及する。総会を混乱させる。』などと言って、企業に圧力を加える文言も詳しく社長から指示を受け(た)。」(同二九号)、「大阪に行く前に、社長はファックス用紙と思われる紙を見せたが、それは『私は株主で』から始まる文面で、この文章については、その後、Cの大阪本社に郵送した文書であり、既にこの時点で社長が作り上げておりました。」(同三一号)という部分も、これとそごする内容の被告人Bの供述調書や、被告人Aが現実にとった行動などに照らし、にわかに信用し難いこと、(6)本件の捜査段階において作成された供述調書は、被告人両名の各供述調書を含め、いずれも、平成一〇年一月二三日に被告人AがFに対しCの疑惑について株主総会で発言して追及する旨申し向けたとした上で、それに沿うように供述が組み立てられたとの印象を払拭できず、殊に、被告人両名及びJの捜査段階における各供述調書中、事前共謀を認めた部分の供述記載は、いずれも画一的で具体性に乏しく、その信用性に疑問があるといわざるを得ないことなどに徴すると、被告人両名の右原審供述を無下に排斥することはできない、というのである。

二  そこで、まず、前記(1)の点については、カセットテープの再生結果によると、原判決が説示するように、被告人Aが平成一〇年一月二三日を含め、Fに対し、Cの疑惑を株主総会で発言して追及するといったことを明確に述べたことは一切ないことが認められるところ、関係証拠によると、被告人Aは、平成一〇年一月九日及び同月一二日にCの大阪本社に電話をし、Fに面談を申し入れた結果、同月二三日午後三時に会うことに決まったこと、その後、被告人Aは、同Bと打合せをし、同被告人から、「専門用語を覚えておけ。何聞かれても答えられるようにしておけよ。強気で話せよ。JISや産廃のことを言っても、相手が認めず、押し切られたら、情報を報道にファックスすると言え。」などと教えられ、同月二三日、被告人両名は、知人のJ、Kの二名を伴って茨城県から大阪府まで自動車で行き、同日午後二時ころ、被告人AとKの二名がC本社の応接室に入ったが、Kは株主でないことから、別室で待つように言われて応接室を出、被告人AとF及びその部下であるLが話を始めたこと、被告人Aは、始めに、「EでJISの認定を受けた製品である断熱材は、嵩比重を改ざんしてJIS認定を取ったと聞いている。Cにいた元社員が話しているので間違いない。これが事実なら大変なことだ。」などと切り出したが、Fから、そのような事実は実際にありません。何か物的証拠でもなければ、話だけでは取り上げることはできません。」などと言われたため、被告人Bから教えられたとおり、Kを呼び寄せた上、同人に、「誠意が見えんから、Gテレビにファックスを送ってくれ。」と指示した後、今度は、「CのM工場の建物の下にゴミが入っている。要するに、断熱材の出来損ないが入っている。写真もある。」「今回の一件については事実あることだ。その証拠写真もある。」と追及したが、これに対しても、Fが、Cの事業の仕組みとしてゴミを埋めるようなことはできないことになっていると理論的な説明をし、被告人Aも、「一応理解できたが、また調べ直す。」旨述べたこと、その直後、被告人Aは、「ただ、今日はFさんとお話もしたので、ただ一つ、よろしいですか。僕も、一口株主で大した者じゃないんですけど、今度の株主総会でですね、それまでは持ってまして、一言だけ発言したいんですよ。EのHっていう課長さんがね、ショウガイ担当のHですという形で言われたんで、僕は、そういったつもりでE工場に行ったつもりじゃないんで、ショウガイ担当と言われた言葉が、ずいぶんこっちのプライドを傷つけましたんで。」と述べたが、Fから、Hの言ったショウガイ担当は、被告人Aの理解している傷害担当」ではなく、「渉外担当」という意味であると説明され、「Fさんのお話を聞いて理解できたけれども、私は株主だということを言った時に、ショウガイ担当という言葉を使われたんで、やっぱり僕は、ちょっとプライド傷つきましたね。」「(ショウガイ担当の意味は)理解できましたが、発言はしますよ。」と言ったこと、以上の事実が認められる。

ところで、Fは、捜査段階及び原審において、平成一〇年一月二三日に被告人Aが述べた「一言だけ発言したいんですよ。」との言葉は、同被告人が言っていたCのJIS規格の問題と産業廃棄物の不法投棄の二点についての疑惑を株主総会で追及する趣旨に受け取った旨述べており、所論もこれを一つの拠り所にしているが、たとえ、Fが被告人Aの右発言をそのような趣旨に受け取ったとしても、前記認定の同発言の前後の経過等に照らすと、右発言は、被告人Aが、Fから、Cの疑惑を証拠がないとか理論的にあり得ないことだといった理由でことごとく否定されたため、右疑惑の点についてはそれ以上追及できなくなり、急きょ、右疑惑に代えて、以前Hから言われたショウガイ担当といった言葉を持ち出し、それを株主総会で発言すると言ったものとみるのが相当である。したがって、右発言が、JIS規格や産業廃棄物の疑惑の追及とは明らかに無関係な内容であり、これを理由に、被告人Aが右疑惑を株主総会で追及するとの態度を示したものとは認められないとする原判決の説示は、その部分に関する限り、正当として是認することができる。

しかしながら、原判決は更に、被告人Aの右発言の真意は明らかでないと説示するが、同発言の経緯に加え、同被告人自身、原審及び当審で述べているように、当初から、同被告人がCの株を買った上、同社の疑惑を追及して同社から金銭を出させようとの意図を有していたこと等に照らすと、右の発言も、一応、ショウガイ担当の言葉に関するものではあったにせよ、Cから利益の供与を受ける意図のもとに、それを株主総会で発言すると述べて、あくまで自己の株主権を行使するとの態度を示したものであることは明らかであり、したがって、同発言は、むしろ、被告人両名間に当初の段階から株主権に関して利益供与を要求する旨の共謀が成立していたことの有力な証拠といえる。

三  次に、前記(2)の点については、原判決が説示するように、CE工場管理グループ総務チームリーダーのHの平成一〇年四月二〇日付け警察官調書(原審検察官請求証拠番号一五号)中には、「平成九年一二月二五日、被告人AがE工場に来て、自分に対し、『カネライトのゴミを埋めていると聞いているが、どうや。』とか、『JIS取得時に嵩比重を改ざんしたふしがある。日報に改ざんした筆跡がある。』などとクレームを付けてきたが、自分が毅然とした態度でそれらを否定したことから、被告人Aが、『工場へ来て、総務課長さんと話をして少し安心したが、Iのようにならないよう心配している。』『株主総会に出席して事実を確認するつもりである。』『大阪本社にも行くつもりである。』などと言った。」旨の記載があり、また、被告人Aの警察官調書及び検察官調書中にも、同旨の記載部分があるところ、これらの記載部分の信用性に疑問を差し挟む事情が見当たらないこと、被告人Aの原審弁護人は、検察官請求の供述調書のうち、多数の調書につき、一部不同意の意見や信用性を争うなどと主張しているが、H及び同被告人の右各調書の記載部分については同意し、信用性も争っていないこと、更には、被告人Bの原審弁護人も右各調書について同意していることなどの事情に照らすと、被告人がHにCの疑惑を追及し、その際、「株主総会に出席して事実を確認するつもりである。」と述べたことは動かし難い事実というべきである。そして、右発言は、その前後の経緯等からすると、Cの疑惑を株主総会で発言して追及するとの趣旨であることは明らかであり、右発言が、実際の趣旨とは異なった形で捜査機関によって録取された疑いが存するとか、ショウガイ担当のHが出てきたことに対する苦情を株主総会で発言して追及するという趣旨であった可能性も否定できないとする原判決の判断は、それを裏付ける資料は何もなく、誤ったものというほかない。

そうすると、被告人Aの右発言は、平成九年一二月の段階で、被告人両名が、Cに対し同社の疑惑を株主総会で追及するとの態度を示して同社から利益の供与を受けようと考えていたことの、一つの証左といえる。

四  また、前記(3)の点については、関係証拠によると、なるほど、事実関係は原判決の説示するとおりであって、被告人両名は、本件当時、株主の帳簿閲覧権の要件等株主権の詳細な内容について知らず、特に、被告人Aの知識は被告人Bよりも劣っていたことが認められるが、前記二及び三において認定したように、被告人Aにおいても、当初から、株主が株主総会に出席して発言する権利があることくらいは知っていたのであるから、原判決のこの点の説示は、被告人両名の当初の共謀を否定する根拠とはなり得ない。

五  そして、前記(4)の点については、確かに、被告人Bの警察官調書(原審検察官請求証拠番号四一号、四四号)中には、原判決の説示する内容の記載が存するが、まず、「総会屋というのは云々」との記載部分(同四一号)は、その供述調書中の「平成九年秋くらいに、N自動車が総会屋に利益を供与したというニュースが新聞やテレビで報道され、また、それより以前には、総会屋のOという人がP証券やQ銀行などから何百億という融資を受けたり莫大な利益を得たりしていた、ということも知っておりました。」との記載部分に続くものであって、被告人B自身、総会屋が会社に圧力をかけていることは分かっていたものの、それにしても、何百億円もの莫大な利益を具体的にどのような方法で得ているのか分からないと述べているにすぎないものであるし、また、「(私は被告人AとJに)『実は、CはJIS規格を取得する時……。だから、Cの株を買って、株主になれば、会社に圧力をかけられるし、話のテーブルに乗せられると思うんだ。』等と私の考えていたことを話したのです。」との記載部分(同四一号)も、右記載自体から、その趣旨とするところは、被告人Bの株式取得の目的が、まずCと面談することにあったことは明らかであるものの、面談できた場合は、Cに対し、株主総会で疑惑を追及すると述べることなどを念頭においていたものと考えられるから、原判決指摘の右各記載部分は、被告人らの原審供述に沿うものとはいえないし、また、「(平成一〇年一月二四日か二五日ころ、被告人AがFさんから聞いてきた話の内容を整理して、二人で話し合ううち)私は、会社側は株のことを一番嫌がっているな、と分かり、また被告人Aからも、『株主の権利って何ですか。商法のこととか、社長、調べてくださいよ。』等と言われたものですから、近くの本屋に行って本を買ってくることにしたのです。」との記載部分(同四四号)も、右供述調書によると、被告人Bは、同Aから、同月二三日のFとの話し合いの内容を聞くうち、Fは、マスコミに疑惑を流すということよりも、株主総会で発言されることを嫌がっていると分かったが、被告人AがFから株主の権利とか商法四九七条の利益供与要求罪のことを言われるなどしたことから、Fに対抗するためには、更に株主権についての知識を深めなければならないと考え、株式会社に関する本を購入し、株主権が自益権と共益権に分かれていること、株主には帳簿の閲覧請求権、株主総会招集請求権や取締役の解任請求権等の権利があることを知ったというのであって、被告人Bも、同Aと同様、当初から、株主であれば株主総会に出席し発言する権利があることくらいは当然分かっており、株式会社の本を購入してそれを初めて知ったというものではないのであるから、右記載部分も、被告人らの原審供述に沿うものとは到底いい難い。

六  次に、前記(5)の点については、まず、被告人Aの警察官調書(原審検察官請求証拠番号三一号)中の「大阪に行く前に、社長はファックス用紙と思われる紙を見せたが、それは『私は株主で』から始まる文面で、……既にこの時点で社長が作り上げておりました。」との記載部分は、右用紙には株主権が自益権と共益権とに分かれているなど株主権等について詳細な内容が記載されていたというのであって、それが、被告人Bの検察官調書(同五〇号)中の「一月二三日以前に被告人Aと話をした際、JISのことやCのゴミのことなどを書いたメモぐらいは同被告人に見せたかもしれないが、その頃には、まだワープロで打った文書は作っていなかった。」との記載部分や、前記五で説示したとおり、前記供述調書(同四四号)において、被告人Bが、「株主権の詳細な内容を知ったのは被告人AがFと面談するなどした平成一〇年一月二三日の後に株式会社の本を購入したことによるものである。」と供述していることと、いずれもそごしていることは確かであるが、被告人AとFとの交渉の経緯等にかんがみると、被告人Bが株主権の詳細な内容を知ったのは、同被告人自身が供述するように、被告人Aが平成一〇年一月二三日のFとの面談後、同被告人から、「株主の権利って何ですか。……社長、調べてくださいよ。」などと言われて株式会社の本を購入しそれを読んだことによるものとみるのが自然であるから、原判決の説示するように、被告人Aの右供述調書の記載部分は、信用性が乏しいというべきである(もっとも、右のような、被告人Aと同Bの供述の違いは、後記七で説示するとおり、捜査官による不当な誘導等がなかったことをうかがわせる一つの事情といえる。)。一方、被告人Aの警察官調書中(同二九号)の「(当初の共謀の段階で)私の犯行における役割としては、Cに対して前面に出て対応するということであり……、株主権の行使ということで、『会社の総会において、社長を追及する。総会を混乱させる。』などと言って、企業に圧力を加える文言も詳しく被告人Bから指示を受け(た)」との記載部分については、確かに、被告人AはFらに対しそのような文言を述べていないことが明らかであり、同被告人のとった現実の行動と異なっているといえるものの、関係証拠によると、被告人Aは、平成一〇年一月二三日に初めてFと会った際、同人がにこやかに、しかし、毅然とした態度で、被告人Aと対応し、同被告人の持ち出す疑惑につき、証拠がないとか理論的にあり得ないことであるなどと否定したため、同人がしっかりした人物であり下手なことは言えないと感じ、更には、「一言総会で発言したい。」と言ったことに対しても、平成九年の商法改正により、株主権行使に関し利益供与の要求をすれば犯罪になるとの趣旨の説明を受けるなどしたことから、被告人Aにおいて、気後れして、その後、Fに対し、総会で社長を追及するとか、総会を混乱させるといった強気の発言ができなかったものと認められ、したがって、右供述調書の記載部分が被告人Aの現実の行動と異なるからといって、その信用性を否定するのは相当ではない。

七  さらに、前記(6)の点については、被告人Aの警察官調書及び検察官調書中には、平成一〇年一月二三日に、被告人AがFに述べた「私は一口株主で、大した者ではないが、今度の株主総会に出席して、一言発言したい。」との言葉は、株主総会でCのJIS規格のデータの改ざん及びゴミの不法投棄の疑惑を追及する意味で言ったとの記載部分が存するが、前記二で説示したとおり、右発言は、右疑惑に関して述べられたものとは理解できず、したがって、右記載部分の信用性は乏しいというべきである。しかしながら、右発言は、株主総会で発言すると言って、株主権を行使する態度を示すことにより、Cから利益の供与を受けようとの意図のもとになされたことに変わりはなく、発言の趣旨が右発言の前に話していたCの疑惑に関するものであるか、それとも、その直後に話に出た「ショウガイ担当」という言葉の点についてのものかの違いにすぎないのであって、被告人Aがその点を混同して供述した可能性も否定できず(このことは、被告人Aが、原審第一回公判期日における公訴事実の認否の際、「威迫」の点を否認したものの、その余の事実は間違いないと陳述していることからも、うかがわれるところである。)、したがって、被告人Aの調書に右のような信用性の乏しい部分があるからといって、直ちに調書の他の部分の信用性まで否定すべきことにはならない。

ところで、原判決は、被告人両名及びJの捜査段階における供述調書中の事前共謀を認めた供述部分は、画一的で具体性に乏しく、その信用性に疑問があると説示しているが、以下の理由から右見解は採用し難く、右供述部分の信用性は概ねこれを肯認することができるというべきである。すなわち、〈1〉Jは、「平成九年一一月中旬ころ、被告人Bから、『CがJIS規格を取得した時、資料を改ざんしている。E工場の敷地にゴミを埋めている。Cの株を買って、株主権を盾に圧力をかけようと思っている。この問題をネタにして、Cから金を取ろうと思っている。Cの株を買ってくれないか。』と持ちかけられたが、そのようなことをすれば、犯罪になると思い、株を買う金がないと断ったが、同年一二月中旬ころ、また、同じ話をしてきたので、断ったところ、被告人Aが来たので、被告人Bは自分にしたのと同じ話をしだした。」旨供述しているのに対し、被告人Bは、「Cに対し株主権を盾にゴミの問題等でクレームを付けて金を取ってやろうと思うようになったのは、同月初めころから中ころのことで、同月一六日ころ、被告人AとJに話をして犯行を誘いました。」旨供述しており、検察官からの、「もっと早い時期から考えていたのではないか。」との質問に対しても、「そういうことはありません。同年一一月中ころ、Jや被告人Aに、総会屋の話とかCのゴミの話などしたことはありましたが、まだ、そのころはCから金を取ろうということまでは考えていなかった。」旨供述しており、Jと被告人Bとの供述内容に食い違いがある上、被告人Bは、主張すべきことは検察官に主張していること、〈2〉J及び被告人両名とも、同年一二月一六日ころ被告人BがJ及び被告人Aに対しCに圧力をかけて金を取ることを誘ったとの点では、各供述は一致しているところ、その際に被告人Bが述べた言葉について、Jは、「実は、CはJIS規格を取得した時に、資料を改ざんしている。E工場の敷地には、ゴミも捨てているんだ。企業は株主に弱いから、株主の要求は断れない。株主になって、株主権を盾にとって、この問題でCに圧力をかけ、金を取ろうと思っているんだ。Cの株を買ってくれ。」と、被告人Aは、「Cでは、昭和六二年ころからJIS規格取得の日報を改ざんしている。カネライトフォームの廃棄物をE工場の敷地内に不法投棄している。株主権を使って、Cに圧力をかければ、金が取れるんじゃねえか。この問題を株主総会で追及して公にするなどと言って圧力をかければ、会社も公にされると困ると思って、金出すんじゃねえか。Aちゃん 被告人Aのこと)が株買ってくれねえか。Aちゃんが株主となって、Cと接触して、圧力をかけてくれねえか。」と言われた旨それぞれ供述しており、一方、被告人B自身は、「CのE工場でJIS規格の認定を取った時に、データを改ざんした。また、E工場の敷地にゴミを埋め立てている。Cの株主になって、このデータ改ざんやゴミの問題を株主総会で問題にして追及すると言って圧力をかければ、Cは金を出すだろう。」と述べた旨供述しており、このように、株主総会でCの疑惑を追及するとの話が出たか否かについては、被告人両名の供述とJの供述は異なっていること、〈3〉被告人両名は、平成一〇年一月二三日にFと面談する以前に打合せをしたことを認めているが、その日時、内容について、被告人Aは、「一月二一日か二二日に二人で打合せをしました。成人の日に打合せをしたことはありません。被告人Bから、『専門用語を覚えておけよ。何聞かれても答えられるようにしておけよ。強気で話せよ。』と言われました。そして、『JISや産廃のことを言っても、相手が認めず、押し切られたら、情報を報道にファックスすると言え。』とも言われました。」旨、被告人Bは、「成人の日の一月一五日前後に打ち合わせたと思います。ただ、はっきりと覚えておらず、一月二〇日前後であったかも分かりません。被告人Aが、『ゴミについては、写真があるということにします。社長(被告人Bのこと)はCにいたんだから、JISの改ざんのデータを持っていると言っときます。相手が事実を否定したら、株主総会で追及すると言ってやります。』などと言っており、私も、『そうだな。そうしたらいい。』と言いました。また、企業としては、スキャンダルがマスコミで公になるのが非常に困るはずでしたから、圧力の効果が強いと思い、被告人Aに、『話の流れで、相手が否定してきたら、Gテレビに話すと言ったらいいだろう。』と言っておきました。」旨、それぞれ供述しており、このように、被告人両名が打合せをした日について両名の供述が一致していないし、打ち合わせた内容も、被告人Aが株主総会で追及すると言ったか否かといった重要な点や、更には、前記六で説示したように、被告人Aが同Bから見せられた文書の体裁や内容等についても、供述内容が一致していないこと、以上の〈1〉ないし〈3〉の諸点に照らすと、被告人両名及びJの捜査段階の供述調書中、事前共謀を認めた供述部分がいずれも画一的で具体性に乏しいとの原判決の右説示は、首肯し得ないところである。そして、〈1〉被告人Aの原審及び当審での各公判供述等関係証拠によると、少なくとも、平成九年一二月一六日ころの話合いの際、被告人両名の間で、Cの株を買い、JIS規格取得時の資料の改ざん及びゴミの不法投棄の疑惑について、Cを追及して金を出させることの謀議がなされたことは明らかである上、そのやり方として、株主総会でCの疑惑を追及するとの話が出たか否かについては、Jと被告人両名の捜査段階における各供述が異なっているところ、前記二及び三のとおり、右話合いのあった約一〇日後である同月二五日、被告人Aは、CのE工場でHと面談し、Cの疑惑を追及したのに対し、同人から疑惑を否定されたため、これに反発して、「株主総会に出席して事実を確認する。」と述べているばかりか、平成一〇年一月二三日にFと面談した際にも、追及した疑惑を同人に毅然と否定されたため、あくまで株主権を行使する態度を示すべく、Hがショウガイ担当として交渉に出てきたことついて、「株主総会で一言言いたい。」と述べているのであって、こうした右被告人の言動に照らすと、被告人両名の捜査段階における各供述のとおり、平成九年一二月一六日ころの話合いの際、株主総会で疑惑を追及するとの話が出た、とみるのが自然であること、〈2〉前記のとおり、平成一〇年一月二三日以前の被告人両名の言動等重要と思われる事柄につき両名の供述が食い違っている上、被告人Bにおいては、検察官に主張すべき点は主張していることが明らかであって、捜査官において、不当な誘導等によって無理に被告人両名の供述を合わせようとした形跡もうかがえないことなどにかんがみると、事前共謀を認めた被告人両名の供述調書の記載部分の信用性は、概ねこれを肯認することができるというべきである。

八  以上の次第で、原判決が平成一〇年一月二三日以前の本件事前共謀の成立を疑問視する理由とした前記(1)ないし(6)の諸点は、いずれも根拠がないか又はそれが薄弱であるというほかない。しかして、被告人Aが平成九年一二月二五日にHにCの前記疑惑について「株主総会に出席して事実を確認する。」旨、また、平成一〇年一月二三日にもFに「株主総会で一言発言したい。」旨それぞれ述べているといった動かし難い事実に、事前共謀を認めた被告人両名の供述調書の記載部分等関係証拠を総合すると、被告人両名の間において、平成九年一二月一六日ころ、Cの株を買って株主となり、Cの担当者と面談するなどして、同人に対し、株主総会に出席し疑惑を追及するなどと言って株主権を行使する態度を示すことにより、同社に利益供与を要求する旨の謀議が、次いで、翌一〇年一月二二日ころ、Cが疑惑を否定した場合には、それをマスコミに公表するなどと述べてCを威迫する旨の謀議がそれぞれ成立したと優に認定することができるから、原判決が、被告人両名が株主権行使に関し利益供与の要求を企てたのは同月二三日にFと接触して帰宅した後であり、同日の時点では、いまだ被告人両名に株主権行使に関し利益供与を要求する旨の共謀が成立していないので、同日のFに対する「Gテレビに私が知っている情報を提供して、この問題を報道の力で正してもらうつもりである。」との発言は犯罪にならないと判示したのは、証拠の評価を誤り、事実を誤認したものといわなければならない。

そして、前記各証拠から認められる平成一〇年一月二三日の被告人Aの「今度の株主総会で一言だけ発言したい。」との株主権行使の発言及び同被告人の「Gテレビに私が知っている情報を提供して、この問題を報道の力で正してもらうつもりである。」旨の威迫行為とその後の原判決認定の「罪となるべき事実」欄の事実とは、単一の犯意から出た一連の行為として、一罪に当たるものと認められるところ、その行為の重要な部分に誤認が及んでいるので、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというべきであり、この点において、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

そこで、刑訴法三九七条一項、三八二条により、原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により更に判決することとし、次の理由により、被告人両名に対していずれも有罪の言渡しをする。

(罪となるべき事実)

被告人Aは、大阪市a区bc丁目d番e号に本店を置くC株式会社(代表取締役D)の一単位の株式(一〇〇〇株)を有する株主であり、被告人Bは、昭和五六年三月一〇日から平成四年四月三〇日までの間、同会社E工場に従業員として勤務していたものであるが、被告人両名は、E工場が資料を改ざんして断熱材のJIS規格を不正に取得し、あるいは、同工場が断熱材の残材等を同工場敷地内に埋め立てて処分するなどの不法投棄をしたとの疑惑があるとして、右疑惑をマスコミに公表すると威迫するとともに、株主総会招集権及び取締役解任請求権を行使する態度を示し、その不行使の対価を得ようと企て、共謀の上、被告人Aが、平成一〇年一月二三日午後二時過ぎころ、同会社本店において、同会社総務部総務チームリーダーFに対し、「E工場では資料を改ざんして断熱材のJIS規格を取得したと聞いている。また、同工場の敷地に断熱材の不良品を埋めていると聞いた。写真もある。」などと追及したが、同人から証拠がないとか理論的にあり得ないことだといって疑惑を否定されたため、前年一二月二五日E工場の管理グループ総務チームリーダーHと面談した際に同人が「渉外担当」であると自己紹介したことに因縁を付け、右Fに対し、株主の応接に「傷害担当」が出てきてプライドを傷つけられたとした上、そのことにつき、「今度の株主総会で一言だけ発言したい。」と株主権を行使する旨申し向け、次いで、同日午後五時ころ、同会社本店に電話をかけ、同人に対し、右疑惑について、「Gテレビに私が知っている情報を提供して、この問題を報道の力で正してもらうつもりである。」と同人の不安、困惑を生ぜしめるに足りることを告げ、さらに、同月二六日午後零時四〇分過ぎころにも、同会社本店に電話をかけ、同人に対し、右疑惑を指摘しつつ、「株主の一代表として、株主総会の招集を求める権利を行使し、株主総会にて、全取締役の解任を、解任というより、ちょっと聞きたいと。このことは、平成一〇年の一月二八日に配達証明付きで送りたいと思っている。」「しかし、もう一つの方法として、双方が納得いく形でいこうかなとも思っている。会社の運営と監督、是正という請求を求めることから、私たちに不法投棄の産廃の処理の仕事をさせていただけないかなと思っている。」と株主権を行使しない代わりに暗に金員を提供するよう申し向け、もって、威迫の行為を用いて、被告人Aの右株主の権利の行使に関し、同会社の計算において財産上の利益の供与を要求したものである。

(証拠の標目)

次の証拠を付加するほかは、原判決が「証拠の標目」欄に挙示している全証拠を引用する。

一  Hの警察官調書(原審検察官請求証拠番号一五号、ただし、被告人Aの関係で不同意部分を除く。)

一  被告人両名の当審公判廷における各供述

なお、被告人両名の弁護人は、被告人らの言動は、「威迫」に当たらない旨主張するが、商法四九七条四項の「威迫」とは、相手に対し言語・動作をもって気勢を示し、不安・困惑を生ぜしめるに足りる行為をいうと解されるところ、前記のとおり、被告人Aが平成一〇年一月二三日午後二時過ぎころ、Cの本社において、Fに対し、CがJIS規格取得に際し資料の改ざんをしている、E工場の敷地に断熱材不良品を埋めたと聞いたなどと言って同社の疑惑を追及した後、同日午後五時ころ、Fに電話をして、「Gテレビに私が知っている情報を提供して、この問題を報道の力で正してもらうつもりである。」旨発言したことは、もしそのようなことがなされれば、たとえ、その内容が真実でないとしても、Cの名誉、信用等を害することになるのではないかとの不安、困惑を生ぜしめるに足りるものといえるから、右発言が「威迫」に当たることは明らかであり、右弁護人の主張は採用できない。

また、被告人Aの弁護人は、仮に、平成一〇年一月二三日午後五時ころの右電話の内容が威迫行為に当たるとしても、商法四九七条四項が「前二項ノ罪ヲ犯シタル者其ノ実行ニ付第一項ニ掲グル者ニ対シ威迫ノ行為アリタルトキハ」と規定し、威迫行為が利益供与要求行為の「実行ニ付」なされなければならないと定めている以上、威迫行為と利益供与要求行為との間には相当密接な関連性が必要であり、時間的限界としては、威迫行為が、利益供与要求の実行行為に着手された後か、着手の前であってもそれと時間的に接着していることを要すると解釈すべきところ、本件では、同月二六日の利益供与要求行為は、右威迫行為とは全く無関係のものである上、時間的にも、右威迫行為の三日後になされているのであるから、右威迫行為は右利益供与要求行為と密接な関連性を有さず、したがって、同法四九七条四項の威迫を伴う利益供与要求罪は成立しないと主張する。

そこで、検討するに、商法四九七条四項所定の威迫を伴う利益供与要求罪は、株主権行使に関する利益供与要求罪に、威迫行為という悪質な要素が加わった場合を加重処罰する犯罪類型であるから、威迫行為が利益供与要求行為の手段としてなされるという関連性が認められればそれで足り、同項が、威迫行為が利益供与要求行為の「実行ニ付」なされなければならないと規定しているのも、右の関連性を必要とする趣旨のものと解される。

そうすると、右の関連性が認められる限り、威迫を伴う利益供与要求罪は成立し、威迫行為と利益供与要求行為のいずれが先になされたかは、同罪の成否に影響しないと解すべきで、右弁護人が主張するような時間的接着性もまた必ずしも必要とはされないというべきである。この点から、本件をみるに、前記のとおり、平成一〇年一月二三日の威迫行為も同月二六日の利益供与要求行為のいずれも、(マスコミか株主総会かの違いはあるにせよ)Cの疑惑を外部に公表することを内容としている点では共通しており、しかも、右威迫行為がCに対する利益供与要求の手段としてなされていることも明白であるから、右威迫行為と右利益供与要求行為との間に商法四九七条四項の要求する関連性が存するというべきであり、したがって、右弁護人の主張もまた採用できない。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為は、いずれも刑法六〇条、商法四九七条四項、三項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人両名を処断すべきところ、本件は、被告人両名が、共謀の上、被告人Bが以前勤務していたCにJIS規格取得に際して資料の改ざんなどの疑惑があるとして、株主権の行使に関し、同社の担当者を威迫して同社から利益の提供を得ようとして失敗したという事案であって、その動機に酌量の余地がないこと、被告人らは、長期間にわたって、Cに対し何度も担当者との面談を要求したり、疑惑の内容等を記載した文書を送りつけたりして、暗に金員の提供を要求していたもので、その犯行は執拗で、悪質というほかないこと、Cの被害感情にも強いものがあることなどに照らすと、被告人両名の刑責を軽視できないが、他方で、被告人両名は、いわゆる総会屋とは関係がなく、その犯行態様も稚拙な面があること、Cに実害が生じていないこと、被告人両名が反省の態度を示しており、親族が監督を誓っていること、被告人両名とも前科前歴がないことなど、被告人らのために酌むべき事情を考慮すると、今回は、被告人らに対して、自力による更生の機会を与えるのが相当と考え、被告人両名をそれぞれ懲役一年六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から三年間それぞれその刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文によりその二分の一ずつを各被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 東尾龍一 裁判官 増田耕兒)

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